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永遠の道は曲りくねる [読書日記]

世界60数カ国を放浪したという宮内勝典さんの新作。その該博な知識と体験を散りばめ、戦争をやめることが出来ない人間の業を描いた。


こんな街、土地があったのかと思ったのは、まず、ベルギーのギール。精神病の人たちが巡礼としてやって来る街で、中世から一般家庭に下宿し、共に暮らしている。米ニューヨーク州の北部、カナダ国境近くには、イロコイ連邦があり、いわゆるインディアンの部族の独立自治領として存在する。ラグランジュ・ポイント、太陽と地球、月の引力がつりあうところ。知らなかった。


物語の主舞台の沖縄は幾度か訪ねたが、波照間島はじめ琉球弧の離島については初めて聞くことが多かった。とくに戦争や核兵器の話は、地理に照らし合わせた細かい歴史的事実について、何とあやふやな理解しかしてなかったことかと痛感した。


それにしても見て見ぬフリをする現実の何と多いことか。シャーマンの口から語られる、残酷な戦争の話。対極にある豊かな自然と生きる喜び。大きな世界観を提示した作品だった。

まつろわぬ民2017 [シネマ&演劇]

高円寺にて演劇集団風煉ダンスの公演初日をみる。上上颱風のボーカルだった白崎映美が主演のスエを演じた。歌がいい、衣装もいい、方言がいい、カッコいい。


坂上田村麻呂の蝦夷討伐いらい中央政府から異端、辺境の民として蔑視された歴史を持つ東北の民への思いがあふれる。原発事故汚染を想起させる廃棄物のヤマ。津波で流された家財道具。舞台装置も登場人物も、東北の3・11後をモチーフにしている。


復興と称して、古い町並みを壊し新たなショッピングモールをつくる。そんな中央資本の施策でいいのか。今の復興策を問うてもいる。いつか帰ってくる子孫を待つ避難区域の山河。トランスホームするゲーム世代キャラの土俗の鬼たちが故郷を守る。ユーモアを交えたつくりの中にキラリと光るせりふがある。ちゃんと一本筋の通った音楽劇、観てよかった。東京の後、福島山形でも公演するという。


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ビンローの封印 [シネマ&演劇]

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久しぶりに雑司ヶ谷・鬼子母神の紅テントにて、唐組・第59回公演をみる。唐十郎作、久保井研、唐十郎演出。1992年の台北公演、その後の凱旋公演いらいの再演という。


ビンローとは、チャイニーズガムともいわれる、噛むと赤い汁が出る実。その赤い汁から連想、妄想が広がる。ビンロー、赤い血、戦争、海の向こう、船、台湾、偽ブランド品--。昭和歌謡(紙ふうせん、テレサ・テン)にのって、キラキラと輝くような言葉が次から次へと役者たちからあふれ出す。


暗転して開幕、途中休憩のときにも客席から拍手がわく。かけ声がかかる。立派なホールでの演劇では味わえない。芝居を見に来てるんだなあと実感する。あぐらがきつく尻が痛いのも、かえって舞台に集中するしかない状況を作り出しているのかもしれない。


アナログな大仕掛けでのエンディングはお約束。混迷の果てのカタルシスが観客を包む。出演者紹介とあいさつの後、舞台のそでではなく、舞台奥の闇、鬼子母神の境内へはけていく役者たち。あの光景が大好きだ。

誰も書けなかった「笑芸論」 [読書日記]

「人生は五分の真面目に、二分侠気、残り三分は茶目に暮らせよ」を座右の銘に生きてきたという、放送作家の高田文夫さんが、昭和から平成のコメディアン、落語家、芸人について、現場で見聞きしたエピソード満載で語る。


サブタイトルに「森繁久彌からビートたけしまで」とあるように、青島幸夫、渥美清、林家三平、立川談志、クレージーキャッツ、コント55号、ドリフターズらの話が次々と出てくる。昭和生まれのテレビっ子にとっては、もう懐かしいのなんの。


ツービートが世に出たとき、山藤章二さんは「漫才はフィクションからノンフィクションに変わった」と喝破したとか、たけしの「コマネチ」は由利徹の「オシャマンベ」のパクリであるとか、坂本九は当初、ドリフターズにボーカルでいたとか、ひょうきん族でたけちゃんマンの宿敵ブラックデビルの初代は高田純次で、風邪のため代役で出たさんまの「クェクェクェ」の方がうけたので選手交代したとか、まだまだお笑い好きにはたまらない小ネタがてんこ盛り。


大好きだったクレージーキャッツ。考えてみると、ジャズマン出身の彼らのリズム感、センスのよさ、カッコよさが子供心にも訴えるものがあったのか。あの大瀧詠一が大ファンだったことも知り、エンタメ界のいろんな人たちのつながりがよく分かる一冊でもあった。





トランスジェンダーの人々の社会の中での居場所 [雑感]

知人が企画に携わっていたので、明治大学駿河台キャンパスのグローバルフロントであった「多様性を考える日仏討論会」を聞きに行った。日本では性同一性障害という病名が先行し、性別転換を望む人たちへの社会の理解は進んでいないのが現状ということなどを知った。
パネリストは、渋谷区の同性パートナーシップ証明書発行に携わった活動家の杉山文野さん。ライターの畑野とまとさん、東大教授の安冨歩さん、仏の社会学者カリネ・エスピネイラさん。杉山さんは、フェンシングの元女子日本代表で、幼いころから自分の性に違和感を抱いていた。世界放浪しても性別から逃れることができなかったと、自己紹介で話した。乳房を切除しホルモン注射をうち、外見はもちろん話し方も男性だが、戸籍は女性だという。
安冨さんは、50歳くらいまでは普通の男性として生きてきた。女性服を着ると安らいだ経験から、男性として生きるのを拒絶した。その途端にメディアから脚光を浴び、それまでの研究も注目してもらえるようになった。性別転換はしていないが、トランスジェンダーの人々というくくりではなく、むしろトランスの人々を「変態」などと差別する側こそグルーピングするべきだと、価値観の転換を訴えた。
性同一性障害の性別の取り扱いの特例に関する法律http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15HO111.htmlに定められている性別変更の条件が障壁になっているという。男女という区別を超えて、多様性を認める寛容な世界を実現できないか。差別がはびこる世界へ向けて、地道に理想を訴え続けることが大事だと思った。

セラピスト [読書日記]

最相葉月さんのドキュメンタリー。河合隼雄、中井久夫という心理学と精神医学大家の足跡をたどり、心の病の治療最前線を描く。


通常カウンセラーと患者という名称を使いがちだが、作品ではセラピストとクライエントと呼ぶ。

箱庭療法の良さは、言葉でカウンセリングできない人と物語を共有できること。日本人は西洋のように物と心を区別しなかったから、心だけを採り上げて言葉にするのが苦手。言葉でカウンセリングできない人と物語を共有できる箱庭は、日本人向きだという。
かつて多かった対人恐怖症はごくまれになり、その代わりに「引きこもり」が増えた。悩めない、悩みが何なのか分からない若者が増えていて、ただムカっとする、主体性が希薄なケースが多いという。時代とともに心の病も変わってきている。
セラピスト (新潮文庫 さ 53-7)

セラピスト (新潮文庫 さ 53-7)

  • 作者: 最相 葉月
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/09/28
  • メディア: 文庫

声のライブラリー [読書日記]

日本近代文学館(目黒区駒場)であった自作朗読と座談会。平田俊子さん、川上未映子さんの朗読と、伊藤比呂美さんの司会で座談会があり、詩人3氏による詩人賛歌となった。


平田さんは、詩集「戯れ言の自由」から。言葉遊びから思いがあふれる。同い年の友人である伊藤さんをうたった「伊藤」という作品に笑った。


川上さんは、詩集「水瓶」「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」から。ナンセンスな言葉の並びが好きだという「すべての××」が延々と続く作品を読んだ。言葉の疾走感、勢いを感じた。


もともと歌手で、芥川賞作家でもある川上さんは、おしゃれ。伊藤さんは、ウナギ犬のTシャツ姿で、自由に突っ込みを入れる。ちょっと構えて、人嫌いのような平田さん。自分をさらけだす詩人でありながら三者三様。川上さんによると、詩作はアタマの中のものを念写するような感じであり、小説を書く場合は読者に分かるように、どこか親切心がいる。詩人には小説家よりも独自の世界を持った人が多いとのこと。伊藤さん、平田さんの間で緊張しながら発言する川上さんは、意外と普通な感じ。もっと浮き世離れした人、天然の人かと思っていたら、結構自己プロデュース力があり、ある意味計算高いのかな、と。そんなところが女性ファンに受けているのかも。



先端で、さすわさされるわそらええわ

先端で、さすわさされるわそらええわ


海辺のリア [シネマ&演劇]

84歳、仲代達矢主演、小林政広監督の作品を試写会でみた。シェイクスピア4大悲劇の一つ、「リア王」の物語を現代に置き換えて、老いた名俳優の芝居への熱い思いを描く。


タイトルのとおり、海辺が舞台。波打ち際、砂浜でのロケが主だったが、まるで舞台で芝居を観ているような感覚にとらわれた。仲代が語ると、そこが舞台になってしまう。シェイクスピア俳優、仲代の演じる認知症老人は、さすがにリアル。黒木華はもちろん演技派だが、今回の役柄にはもっとやさぐれ感があった方がよかった。ちょっと品が良すぎたかな、と思う。


自分には(役者には)思い出はいらない、観客の思い出の中にいることができればいいんだ。作品の中での一言は、仲代の気持ちそのままなのだろう。


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「反日」中国の文明史 [読書日記]

東京大学大学院法学政治学研究科准教授の平野聡さんの新書。しばらく積ん読だったのを読了した。国内では嫌中の人が増え、日中関係はかつてなく冷え込んでいると言われる。とはいえ海を隔てた近隣の大国から、長い歴史の中で様々なものを移入してきた日本。これからも付き合い続けなければいけない国だ。


本書は、なぜ中国が「反日」なのかを歴史をたどりながら説明する。「中国は国ではない。巨大な文明である」と、戦前の東洋史研究家である内藤湖南や矢野仁一は説いたというが、要するに長い間、大陸ではいろんな王朝が「天下」をとり、周辺国は朝貢国であった。唐や明、清などの皇帝たちは先進の文明を広め、周辺国を教化してきた歴史がある。欧米の列強によって清は崩壊し、中華民国、中華人民共和国になったが、その思考法は王朝の頃と変わらない。


いち早く欧米流の近代化に成功した日本。国際法の世界に遅れて参入した中国は、ルールを知らないうちに日本が先占したという理由で尖閣諸島の領有を主張している。友好条約を結んだのだから仲良くしようよ、という風にはなかなか行かないのが国際政治、外交の現実だと思い知らされる。


「反日」中国の文明史 (ちくま新書)

「反日」中国の文明史 (ちくま新書)


タグ:中国 反日

蜜蜂と遠雷 [読書日記]

恩田陸さんの作品は「夢違」に続いて2冊目。直木賞受賞作で本屋大賞にも選ばれた小説だけに、もう賛辞は言い尽くされているかもしれないが、クラシックを少しでも聴いたことがあれば、「これはすごい」とうなるのは間違いない。音楽を文章で表現する、究極の技がすごい。以下は、小説の中で、なるほどと思ったこと。


かつて中村紘子さんの「チャイコフスキーコンクール」を読んだことがあるが、コンクールでの審査の裏側も描かれている。審査員は審査する方でありながら、審査されている。審査することによって、その人の音楽性や音楽に対する姿勢が明らかになるから。コンテスタントだけでなく審査員も試される。


フィボナッチ数列という数学用語も出てくる。やはり音楽は宇宙の秩序。音楽と数学は明らかに親和性がある。優れた音楽家は数学も得意との指摘もある。確かにバッハの曲などは、きれいな数列のような譜面と聞いたことがある。


人間の呼吸は、「吸って吐く」のではなく、「吐いて吸う」が基本だという。赤ちゃんは生まれたとき、大声で泣いて息を「吐く」。そして人生の最期には、すっと「息を引き取る」。最期は「吸う」のだという。


蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷


ワイルド・スピード ICE BREAK [シネマ&演劇]

イオンシネマで体感型アトラクションシアター4DXを初体験した。

猛スピードのカーチェイス、アクション、爆発シーンと、座席は振動しっぱなし。

風や水しぶきまで感じるのは、おもしろかつたが、何度も椅子からずり落ちそうになったのには参った。

ストーリーは勧善懲悪、単純明快。ファミリーがキーワードなのは、ハリウッドならでは。

4DX料金1000円分の価値はありかな。

紙芝居 アメ横のドロップ売り [シネマ&演劇]

東中野の芝居砦・満天星にて新宿梁山泊の創立30周年記念公演第1弾をみる。唐十郎さんの書き下ろし作品を金守珍さんが演出。


大阪を中心にかつて人気だった山口正太郎氏作・画の紙芝居「おおかみ王女」を題材に唐さんの母親のことを書いたといわれる作品。舞台は戦後間もないアメ横で、紙芝居の手伝いをしている女と、復員兵の出会いから物語が展開する。鴻上尚史によると、唐芝居は要約が不可能で起承転結というより、イメージの連鎖で紡がれていく物語。


この作品も劇中歌にイメージを膨らませながら、昭和のロマンにどっぷりと浸かる、楽しいひとときを味わえた。あえて作品に意味を持たせるとすれば、人が物語をつくり語る自由の大切さを訴えていると言えるのではないか。金さんの演出で、唐芝居の読み解き方が少し分かった気がする。


状況劇場 劇中歌集

状況劇場 劇中歌集

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SUPER FUJI DISCS
  • 発売日: 2011/10/05
  • メディア: CD



笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ [シネマ&演劇]

試写会で鑑賞したドキュメンタリー。日本初の女性写真家と伝説のジャーナリストの生き方を元NHKの河邑厚徳監督が撮った。


昨夏亡くなった、むのたけじさんは、元朝日の記者。敗戦で社をやめて故郷・秋田県横手に帰り、週刊新聞「たいまつ」を発行した。二度と戦争を繰り返してはいけない。そのメッセージを伝えることを自らの使命として、書き、話し続けた。2015年、集団的自衛権を認める安保関連法案の国会審議のとき、若い人たちがデモなどで反対を叫んで立ち上がった。「この70年間戦争をしなかった日本だから、こうした若者が育ったのだ」と話した。


笹本恒子さんは、徳富蘇峰や加藤シヅエ、浅沼稲次郎、力道山ら昭和の有名人にカメラに納め続け、なお現役。代表作「明治生まれの女性たち」シリーズは、女性の地位向上に大いに貢献したという。


しかし101歳になっても、実に覇気があるし、笑顔なのがいい。人生はもちろん山あり谷ありで、二人とも家庭的、健康的に辛い思いをしたことも数知れなくあったらしい。それでも自分のやりたいことを死ぬまでやり続けるという決意が二人にはあった。むのさんは入院中でも「微笑みながら死にたい」と言い、死ぬときの練習をしていたというエピソードもある。それはきっと残された人への心遣いでもあったのだろう。


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ジムノペディに乱れる [シネマ&演劇]

日活のロマンポルノ・リブート・プロジェクトで、丸の内日活が1日限り復活した。新シリーズ5作品一挙上映というので観に行ってみた。総尺80分程度、10分に1回の濡れ場、制作費は全作品一律で撮影期間は1週間。完全オリジナルで、ロマンポルノ初監督という条件で、5人の著名監督がチャレンジした。


驚いたのは結構、女性客が多いこと。行定勲監督はラブストーリーの名手といわれているだけあって、エリック・サティの名曲にのせて、いろんなシチュエーションでの愛の場面を美しく官能的に撮っている。そんなところに女性ファンは惹かれるのかも。板尾創路演じる映画監督が自分の撮りたい映画を撮れない鬱屈を女性たちにぶつける様は、創作活動に携わる人たちが必ずぶち当たるカベのようなものだろうと納得できた。


女優は、芦那すみれの透明感、岡村いずみのコケティッシュな魅力がなかなかよかった。AV時代のロマンポルノは、わいせつ性ではなく、文学性で話題になるようなレベルの作品群がとりあえずそろったと感じた。


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城塞 [シネマ&演劇]

新国立劇場の「かさなる視点-日本戯曲の力」シリーズ。安部公房作。満州からの引き揚げ体験がある氏が昭和30年代に書いた戦後を見つめる作品。あの名作「砂の女」を同じ年に発表していると聞き、劇中に出てくるストリッパーの女が砂の女のイメージと重なった。


劇中劇で、主人公の男の父は戦争成金という設定。今でいうPTSDか、引き揚げ体験がトラウマとなり、気が狂い、酒を飲んだときだけ、まともな会話ができる。ただ内容はいつも引き揚げ時の話。高度成長のまっただ中、だれもが戦争のことは忘れて、カネもうけに夢中になっている。でもよく考えると、それは戦争の犠牲者の上に成り立っているのではないか。


かつてノーベル文学賞に一番近い日本人作家といわれた安部公房の視点は、まったく古びていない。饒舌すぎない、しっかりとした台詞。革新的な手法は、永遠の前衛といえる。上村聡史演出。山西惇、たかお鷹、辻萬長、松岡依都美、椿真由美。


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ライアー [読書日記]

大沢在昌さんのアクション・ハードボイルド。美しき妻であり母親が冷徹な暗殺者として、悲しき真実に迫る。

かつて新宿鮫シリーズにはまったが、今回は女性が主人公とあって少し趣が違った。それにしても大沢さんの銃器の知識の豊富さには驚かされる。ガンマニアとして、東南アジアなどで実際に射撃したりして、長年取材してきたと、聞いたことがある。グロック36だの、コルトM1911だの、読む方ももう少し銃の知識があれば、もっと物語を楽しめたかも。屋内射撃場には、強力な換気扇が不可欠で、それは銃を発射すると、有害な火薬の燃焼ガスと、銃弾の鉛の破片とガンオイルが放出されるからという。

オッカムの剃刀という言葉を知った。複雑な理由をつけようとしても、物事はほとんど単純な理屈で動いているといった意味らしい。

ライアー (新潮文庫)

ライアー (新潮文庫)

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/03/01
  • メディア: 文庫



下り坂をそろそろと下る [読書日記]

劇作家平田オリザさんの新書。経済成長第一の工業国から脱し、地域独自の「文化」を育む国作りへの転換を提案する。

目指すのは、子育て中のお母さんが、昼間に子どもを預けて、映画や芝居を見に行っても後ろ指を指されない社会をつくること。この視点が今の子育て支援対策に欠けているという。瀬戸内・小豆島や、但馬・豊岡市、讃岐・善通寺などの地域づくりを紹介しているが、いくつかの新しい概念やフレーズが心に残った。


その一つは、「関係人口」という考え方。自治体はこれまで、定住人口や交流人口を増やすことに躍起になってきた。小豆島は瀬戸内国際芸術祭、コウノトリの郷・豊岡は城崎国際アートセンターを核に、地元のイベントに定期的に関わる人達やファンを増やしている。雇用や住宅を整備してU・Iターンを促すのではなく、センスのある文化政策で楽しい賑わいを生み出す。自己肯定感があることが大事だと説く。


平田さんの考える新たな「この国のかたち」を語るため、随所で、司馬遼太郎「坂の上の雲」の一節を引用している。あらためて司馬史観の影響力に感心した。

東北の震災復興の章では、リーダーシップも大事だが、フォロワーシップも大事であると指摘する。これに関連して紹介された、故梅棹忠夫氏の言葉、「請われれば一差し舞える人物になれ」という人生訓にも共感した。

下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)

下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)




「ない仕事」の作り方 [読書日記]

「マイブーム」や「ゆるキャラ」の名付け親として知られる、みうらじゅんさんの仕事術をまとめた一冊。その目の付け所に常々感心していたが、これはいわゆるノウハウ本ではなく、一つの哲学を明らかにしたものだった。

世間ではマイナスイメージのものを、「ポップ」に見せることを意図してやっている。言葉の終わりに「ブーム」や「プレイ」をつけてしまうのも一つの方法。例えば、童貞ブーム、失恋プレイ、親孝行プレイ。そんな言葉をつくって自らを洗脳し、面倒なことやネガティブなことを楽しみに転化させてしまうという。

ブームになるものは、かなりの確率で言葉が略される。アナ雪、壁ドン、パズドラ。約められるのが流行のルールだという指摘。映画を見終わって、「なんかつまらなかったね」と一言で片付ける人がいるけど、映画は面白いところを自分で見つけることこそ醍醐味なのだと主張する。なるほどね、と何度も頷いた。

本では、自らの仕事のやり方を「一人電通」とネーミングしているが、さすがに昨年来の電通たたきは予見できなかったらしく、そこがまた、みうらさんらしくて良かった。

「ない仕事」の作り方

「ない仕事」の作り方

  • 作者: みうら じゅん
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



ムーンライト [シネマ&演劇]

バリー・ジェンキンス監督。今年のアカデミー作品賞。人種差別が主テーマの作品と思っていたら、LGBTQの方がメーンだった。大作主義のハリウッドでも、こんな地味な佳作を作るんだというのが率直な感想。

母親のネグレクト、クスリ中毒、売春、学校でのいじめ。背景には米国に根深くはびこる人種差別、格差社会があるとはいえ、作品を貫くのは主人公の黒人少年(青年)の「どうして」という思い。どうして母親は愛してくれないのか、どうして自分だけいじめられるのか、どうして彼は助けてくれなかったのか。言葉少ないけれど、目が語る。

性的マイノリティを主題とした映画の作品賞受賞は初めてという。トランプ時代だからこそ、「ラ・ラ・ランド」ではなくて、「ムーンライト」を選んだ。ハリウッドは、マイノリティの愛の物語に「リベラルな米国を守れ」という政治的メッセージを込めたのだろう。

エグゼクティブプロデューサーはブラピ。出演した歌手のジャネール・モネイはなかなか魅力的だった。

Archandroid

Archandroid



夜の谷を行く [読書日記]

桐野夏生さんの新刊。1972年の連合赤軍事件から2011年の東日本大震災まで。学生運動、左翼の活動が活発だった頃、闘士として山中のアジトで事件に関わった女の40年後を描く。

リンチ、総括といった言葉が有名になった事件。裁判では、主犯とされた永田洋子死刑囚の嫉妬が大量殺人を招いたとされたが、実態は違ったのではないか。革命戦士を子どもから育てるため、女たちが集められた話や、永田死刑囚が大震災の直前に病気のため獄中死したことを知った。

「抱く女」が桐野さんの自伝的小説とすれば、今回の作品は同時代を生きた女として、革命を夢見た女たちがなぜ道を踏み外してしまったのかを歴史ドキュメントタッチで描いたものだ。文中にも出てくるが、2011年の大震災を境に、日本は変わったと思ったこと、変わると感じた時代の空気は今、どこに行ってしまったのか。作品を読んであらためて考え込んだ。

夜の谷を行く

夜の谷を行く



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